大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和36年(う)1560号 判決 1961年11月06日

控訴人 被告人 細矢喜八郎

弁護人 野町康正 外三名

検察官 竹島四郎

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中百五十日を被告人に対する原判決の懲役刑に算入する。

理由

所論は、本件においては被告人が売春婦らを自己の指定する場所に居住させた事実はない、原判決が売春婦らを原判示「茗里」「大王」等に集合、待機させた事実を捉えて売春防止法第十二条にいわゆる「自己の指定する場所に居住させた」と認定したのは事実の誤認であるのみならず、右法条の解釈を誤つたものであるという趣旨の主張をしているのであるが、原判決挙示の証拠によれば、被告人は原判決記載の各共犯者らと共謀の上、原判示各売春婦らをして売春をなさしめ、その対償を同女らと分け合う約定の下に、同女らの客待ちの場所として原判示飲食店茗里及び大王方を指定し、連日午後七時頃から同女らを右場所に集合待機させ、各共犯者ら及び売春の周旋人たるいわゆるポン引きらが探して来た不特定の客を相手として順次その付近の旅館等において売春行為をなさしめ、それが終つた都度再び同場所に戻つて次の客を待機させ、毎夜深更三時頃になつて漸くその日の稼ぎ高を計算して分配し解散するという行為を繰り返えし、その期間が原判示の如く数ケ月に亘つたこと、右売春婦らは、右茗里及び大王以外に各自寝食起臥をなすべき住居を有していることは認められるが、しかしながら同人らは売春行為をなすために毎夕定刻に右待機場所たる飲食店に集合すべきことを被告人らから要求されており、無断でそれに違反するような場合には厳しい叱責を受けていたのみならず、右飲食店において待機中においてもみだりに外出することは許されていなかつたことが各認められ、換言すれば、被告人らは売春婦らをして毎夕定刻に右飲食店に集合させ、売春のため待機させ、随時売春行為をなさしめ、結局翌朝に至るまで長時間(毎夜八時間位)にわたつて同所を本拠地として売春行為に従事させていたことが明認できるのであるから、かくの如きは売春防止法第十二条にいわゆる「人を自己の指定する場所に居住させこれに売春をさせることを業とした者」というべきであつて、売春婦らが他に寝食起臥の用に供すべき住居を有すると否とは右各飲食店を売春防止法第十二条にいわゆる居住の場所と認めることの妨げとならないものと解すべく、よつてこれと同趣旨の事実の認定と法令の解釈、適用をした原判決は相当たることを失わず、結局、原判決には所論の如き事実の誤認ないし法令適用、解釈についての過誤は存在しないといわなければならない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 三宅富士郎 判事 東亮明 判事 井波七郎)

弁護人野町康正の控訴趣意

第一点原判決は事実誤認があり其の誤認は当然判決に影響を及ぼすこと勿論である。

(イ) 原判決は売春防止法第十二条に該当すると考えているが証人神永静枝の証言によれば(二冊)(四〇六丁裏)(四〇七丁裏)居住の管理ではない「出て行かない時には続けて十日位休む時があり又、福島長野方面へ一ケ月以上の旅行をしたことがある云々」此等は強制的に居住を命令制限して居るとは言えない私的生活も勝手に定めるのである。

(ロ) 証人川田ヒサ子の証言(一冊二二一丁)によればバー「ラツキーセブン」に居つたので(検察官の調書は警察での心にもない調書の延長である旨)大王や茗里に指定せられていないと述べてをる。

(ハ)茗里大王は喫茶店であつて指定された所でないし亦宿屋ではない(二冊四三六)茗里大王に居なければと云ふ契約した事はない。宿屋は女が勝手に定めるのである。

(ニ) 被告人縄矢は他の人に命令したり又指示したりした親分ではない。証人高橋の証言(三冊七二二丁)にもはつきり証明出来るし亦女一人一人にも命令も指示もしていない事は勿論である。

(その他の控訴趣意は省略する。)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例